森田は雇用の件に関して、森、中村と緊急ミーティングを開いた。
「森さん、この先一体どうなってしまうんでしょうか?」
森田は不安でたまらず、森に安心できる回答を求めた。
しかし森は「今はどうすることもできませんね」と返答した。
森田は青ざめた。
もしかしたらこのままチームは崩壊してしまうのではないか・・。
せっかくVリーグ参入が決まったのも束の間、今まで以上の窮地に立たされ森田は心が折れかけた。
中村が口を開いた。
「選手達には早急にこの事実を伝えましょう。」
しかし森田は考え込んでしまう。
天皇杯・皇后杯の決勝リーグまで残り約2ヶ月と迫る中、選手とチームに取って、今が一番大切な時期に差し迫っていたからだ。
この事実を伝えると、チームの士気が下がる。
しかし選手達は生活がかかっている。森田の心で葛藤が始まり答えを見出せずにいた。
「中村さん、数日時間をくれませんか?選手達には僕から伝えます。でも時期は今では無い気がします。もしかしたら雇用が継続できる奇跡は起こらないでしょうか?」
森田は必死に中村へ訴えた。
「今は実現されるかわからない希望よりも現実を見るべきです。」と冷静に話す中村を見て、森田は諦めきれずにいた。
森田は、選手時代のことが走馬灯のように頭を巡った。
自分は選手時代恵まれていた。名門チームに12年在籍し、正直お金に困ったことは無かった。
しかし、今は1日足りともお金の心配をしない日はない。
「お前はチームを創る資格は無い、今すぐやめてしまえ。」森田の心の中で悪魔がささやく。
逃げ出したかった。これ以上、選手たちが苦しむ姿を見たくなかった。
やっと苦しいクラブチームの時代を乗り越え、つかんだVリーグの世界。
選手たちの嬉しそうな顔を見て森田は本当に幸せだった。
そんな幸せの絶頂から地獄に突き落とすことなどしたくなかった。
森田は、重い口を開いた。
「僕には答えが出ません。この事実をいつ伝えるべきか。」
即座に森は「明日選手たちに伝えましょう。」と答えた。
中村も「どう考えても伝えることを延ばす意味がありません。言わないことが優しさではありません。僕達に出来ることは、1日でも早くみんなの再就職先を見つけることです。」と反応した。
森田は、観念した。
確かにそうだ。
言わないことは選手たちのためではなく自分のためではないのか、と感じた。
自分は現実から目を背けているに過ぎない。
「わかりました。明日練習の前に言いましょう。」
翌日、森田、森、中村で選手に話すことが決定した。
森田は、その日全く食事が喉を通らず、一睡もできなかった。
そして涙が止まらなかった。選手全員がやめてしまうことを心の底から恐れていた。
気づけばカーテンから朝日が差し込んでいた。
しかし、森田の心をあらわしているかのような大雨が吹き荒れ、窓をガタガタと揺らしていた。
もう朝だ。行きたくない。
心の底からそう思ったが、残酷な時間は待ってはくれない。
森田は、「よし!」と気合を入れ起き上がってシャワーを浴び、栄養ドリンクをがぶ飲みしてすぐに家を出た。
森田は、運転しながら今までの苦労を思い返していた。
「今までも何とかなった。今回も何とかなる!!」
不安な気持ちに押し殺されそうだったが、そんな気持ちが心に入らないように自分に何度も何度も言い聞かせた。
そしてついに運命の時間が訪れる・・・