2021年8月に福智町で合宿を行った後、KANOA福岡は、平日は福岡市の高校の体育館、土日は福智町の体育館、という新しいルーティーンで練習を積み重ねていた。
ようやくそんな生活にも慣れはじめた、約1か月後。
松永の「油断したらダメ」との予感が的中し、チームに最悪の通達が届く。
「Vリーグ参入、保留」
森田は頭が真っ白になり、激しい吐き気におそわれた。
正確にいうと、“保留”の連絡が来たのが9月末。その後、追加書類の提出等を求められて対応したが、11月には正式に「本年度のVリーグ入りを見送りとする」通達が来てしまった。
理由はいくつかあったようだが、途中で選手の総入れ替えがあったことで、2年間のチーム運営が、複数年の実績とは認められない、と判断されたことが大きかったらしい。また運営の資金状況も影響していた。
「なんのために、毎日働きながら、往復2時間以上かけて移動して、遊ぶ時間もなくして、毎日毎日がんばってきたんやろ……」
選手たちの落胆は、大きかった。
“このチームだから、Vに上がれないんじゃないか?”
“どれだけ頑張っても、悪評が強すぎて、落とされるんじゃないだろうか?”
自分たちはいったい、何のためにここまでがんばってきたのか──。
それまでは「絶対、Vに上がるから」という言葉で、心配する親を説得してきた選手たちもいる。だがこの落選結果を受け、親たちからは「まだバレーするなら、違うチームへ行け」との声が入った。親子喧嘩をした者も少なくない。
“このメンバーでVリーグに上がって、勝ち進んでいくってめちゃめちゃおもろいやん、って話してたのに……”
“もうあきらめて、実家に帰ろうか……”
メンバーのなかでも、それぞれの思いが渦巻いていた。
実際、選手のうち3名は、Vリーグ入りの見送りが決まってからチームを離れた。
──でも。
松永歩未は思っていた。
今、ここで辞めたら。たぶん、絶対に後悔する。
ここで耐えて、なんとか乗り越えて、「それでも、残ろう」と決意したメンバーで、もう1年、Vを目指したい。そこには何か、大きな意味があるような気がした。
もう1年、もう1年だけ。そこでなんとしても、絶対に、Vに上がる。
まだ、終わっていない。
他のメンバーも、同じような気持ちを抱いているものは多かった。
“それに”
松永の中にはある思いがあった。
“まだ森田さんのやりたいバレー、できてないし”
(取材・構成:KANOA映画化推進委員会)