HISTORY
更新日 公開日

【 第7話 】多額の借金。森田、貯金を切り崩す日々

チームの資金は、底をついていた。

 

練習着どころか、試合へ向かうときですら、揃いの移動着もない。試合にはそれぞれ、バラバラのジャージで参加していた。

 

スポーツジムのスポンサーが、たまたま余っているTシャツをくれたことがある。

 

「カノアさん、捨てる予定のTシャツがあるんですが、必要ですか?」。森田は、即答で「欲しいです!ください!」とがっついた。チームロゴも何もないけれど、揃いのTシャツがあること自体が嬉しくて、心からありがたくて、それを着て試合に向かった。

 

ただ、いかにお金がなくとも、コーチやマネージャーなど運営スタッフの人件費や社会保険料は捻出しなければいけない。監督である森田は自分自身も無給のなか、運営スタッフの給料と社会保険料のため、毎月、個人の貯金を切り崩していた。

 

森田自身も、幼子と妻という家族がいる。だがチームの状況を話し、収支について説明することで家族の多大な協力と理解を得て、本当にぎりぎりのところで生活を回していた。

 

スポンサーは20社から4社に減った。お金はない。協力してくれる大人もいない。

 

でも、選手たちがいる。

 

自分を信じて、他ではなくこのチームに集まってきてくれたメンバーが、コーチが、マネージャーがいる。

 

「みんなでVに上がろう」。

 

その一心で、過酷な生活をここまで一緒に走ってきてくれているメンバーたちが。

 

貯金を切り崩そうが、借金を負おうが、森田には途中で辞めて逃げ出す選択肢がなかった。

 

そう、当時はさらに追い打ちをかけるように、前の運営陣が抱えていた借金も発覚していったのだった。

 

前の運営陣は、支払いに関してルーズなところがあった。過去の記録を調べていくうちに、チームとして支払わなければならないお金が、なんと未払いのまま止まっているという、組織としてあるまじき状況が見えてきたのだ。

 

精査してみると、森田が監督に就任する前、前の運営陣が抱えていた借金は、高級外車を新車で買えるほどの額にのぼっていた。

 

これ以上、この状況を引き伸ばすわけにはいかない。

 

最終的に、森田は自らが監督を担う傍ら、代表理事も兼任することを選択した。トラブルメーカーだった運営陣は突然辞任し、消えていった。

 

もうとっくに、自分のキャパシティは越えている。でも、守るべき選手たちがいる。そして自分がなんとかしないと、やる人は他にいない……。森田は腹を括った。

 

代表理事として前任の借金を引き継いだ森田は、税理士に相談しながら、払っていないものを洗い出し、無給のなかで自らの貯金から一つひとつ支払っていった。

 

そして2021年6月、Vリーグ参入への申請が始まった。必要書類を提出し、結果が出るのは約3か月後の10月初旬。

 

苦しいながらも、Vリーグ参入への条件は整えていた。目の前の練習を積み重ねつつ、良い結果を祈るばかりの日々を送った。

 

 

前任の借金返済をしながら日々を過ごすなか、KANOA福岡にひとつの希望の光が差し込む。

 

「福岡に、どん底状態の運営をV字回復させるスペシャリストがいる」という噂が、森田の耳に入ったのだ。さらにその人は、共感を得た企業には出資や経営指導もしてくれるという。今のKANOA福岡には、喉から手が出るほど欲しい人材だった。

 

それが現球団本部長、森裕介である。

 

しかし、森は最初からすぐに森田に手を貸してくれたわけではなかった。

 

出会いは、知人を通じて噂を聞いた森田が、藁をもすがる思いで面会の場をセッティングしてもらったところから。この面会の場を設けるまでにも、1か月の時間を要した。

 

ようやくたどり着いた面会の場で、森田は一生懸命、今までの経緯や現状、そしてこれからの展望を説明する。しかし森からの返事はあっけなく、「興味ありません」の一言だった。

 

森田は目の前が真っ暗になり、途方に暮れた。

 

でも不思議と“この人とは一緒に仕事ができる”という根拠のない自信を感じていた。

 

何度も何度も、しつこく森に電話し、「話を聞いて欲しい」と懇願する森田。

 

土下座をしてでも、何とかチームに入ってほしい。ただ申し訳ないけれど、報酬を支払う余裕はない。でも、そこをなんとか、手伝ってほしい──。無茶苦茶な依頼だとわかっていたが、当時はすがるしかない状況だった。

 

結果、森からは三度断られた。

 

“ああ、KANOAは終わった……”

 

三度目の断りを受け、さすがの森田もあきらめかけた数日後、森の反応に変化があった。

 

「もう一度、話を聞きます」

 

森の中でどういう心境の変化があったかは定かではないが、森田は目の前が少しだけ明るくなったような気がした。2021年の6月下旬のことだった。

 

(取材・構成:KANOA映画化推進委員会)

ヒストリー一覧に戻る

Contact

お問い合わせ
お電話でのお問い合わせ

0947-85-8355

ご質問・お問い合わせ
お問い合わせフォーム
商品・サービスへのご質問・ご不明な点などがありましたら、お気軽にお問い合わせください。